
事故直後に痛みがなくても後から現れる首の不調
追突事故による「むち打ち」は、衝撃によって首が前後に大きく揺さぶられることで生じます。事故直後は痛みを感じなくても、時間の経過とともに首の痛みやこわばり、頭痛などの症状が現れることがあります。翌日以降に症状が強くなるケースもあるため、事故直後に異常を感じなくても注意が必要です。この記事では、首に負担がかかる仕組みや以前からある肩こりとの違い、医療機関で行う検査、早急な受診が必要な症状について分かりやすく解説します。
この記事の要点まとめ
- 追突で首が前後に揺さぶられ、炎症や筋肉のこわばりにより、数時間から数日後に症状が現れることがあります。
- 痛みやしびれの経過、事故状況を記録し、症状に気づいたら整形外科で相談しましょう。
- 画像検査と診察で状態を評価し、強い頭痛や手足の脱力、繰り返す嘔吐があれば救急受診を検討しましょう。
追突事故でむち打ちが起きる仕組みと、症状が遅れて出る理由

後ろからの衝撃で首が「反って戻る」S字の動きが起こる
追突された瞬間、シートに支えられた胴体が先に前へ押し出され、重い頭がその場に取り残されます。その結果、まず首の上のほうが前に曲がり、下のほうが後ろへ反るS字の形になります。そのあと首全体が大きく後ろへ反り、反動で前へ振られます。
このように首が急に動いて、首の筋肉や靱帯(骨と骨をつなぐすじ)、関節などに負担がかかった状態を、一般にむち打ち(頸椎捻挫・外傷性頚部症候群)と呼びます。
速度が低くても起こりうる?ヘッドレストの位置や不意の衝撃との関係
車の速度が低くても、条件が重なると首へ大きな負担がかかることがあります。とくに信号待ちなどで身構えていないときは、首の筋肉が衝撃に備えられません。
また、ヘッドレスト(頭の後ろの支え)が頭から離れていたり低すぎたりする場合や、横を向いていた姿勢でも負担が増しやすくなります。そのため、速度だけで症状の有無を判断することはできません。
直後は平気でも、数時間〜数日たって痛みが出やすい理由
事故直後はほとんど痛みがなくても、数時間から数日にかけて、徐々に症状が現れることがあります。こうした経過は追突事故だけでなく、転倒などによるけがでもみられます。
症状が遅れて現れる理由の一つに、けがをした組織の炎症が時間とともに進行することが挙げられます。また、事故直後は緊張や興奮によって痛みを感じにくくなり、首をかばうことで筋肉がこわばり、翌朝になって痛みや動かしにくさを自覚する場合もあります。
このように、事故から時間が経って現れた首の痛みや動かしにくさも、事故による影響の可能性があります。
首の痛みだけではない:頭痛・肩の痛み・腕のしびれ・めまい
むち打ちでは、首の痛みだけでなく、肩こりや頭痛、めまい、手のしびれなどが出ることがあり、長い間続く場合もあります 1。症状の出方や強さには個人差があります 2。
なかでも首の障害から生じる頭痛は、片側の後頭部から始まり、首の動かしにくさや吐き気を伴うことがあって片頭痛と紛らわしい場合があります 3。頭への衝撃を伴った場合の外傷後頭痛も含め、痛む場所や性質を医師に伝えることが診断の手がかりになります 4。
ポイント
追突されたときは、思いがけない衝撃で首がS字にしなります。炎症が進んだり筋肉がこわばったりして、次の日より後に首の痛みや頭痛が出てくることがあります。
以前からの肩こりとの違いと、診察で医師に伝えたい経過
「いつもの肩こり」と自分で見分けにくい理由
以前から肩こりがある方は、事故後の首や肩の重だるさを「いつものこり」と考えてしまいがちです。どちらの症状も首から肩にかけての張りや頭痛として感じられるため、ご自身で見分けるのは容易ではありません。
事故前と比べて首が回る範囲が狭くなった、痛む場所や時間帯が違う、腕のしびれが加わったといった変化がある場合は、医療機関で評価を受ける目安になります。
診察前にメモしておきたい事故状況と症状の経過
むち打ちの診察では、事故の状況と症状の経過を体系立てて確認し、記録に残すことが重視されます 2。受診前にスマートフォンのメモなどへ次の項目を日ごとに残しておくと、医師へ正確に伝えやすくなります。
- 事故の状況:日時、停車中か走行中か、座っていた姿勢や顔の向き、ヘッドレストの位置
- 症状の経過:違和感を覚えた日時、痛む部位と広がり、痛みの強さ(0〜10の目安)
- 日常への影響:後方確認やパソコン作業などつらくなる動作、事故前からの肩こりの程度
事故から日を置かずに整形外科を受診したほうがよい理由
症状に気づいたら、できるだけ日を置かずに整形外科を受診することが勧められます。事故から時間がたつほど、首の不調と事故との関係を確認しにくくなるためです。
また、痛みが長引いた場合に備えて早期から状態を把握しておく意味もあります 2。事故日から長い期間が経過して初めて整形外科を受診すると、のちに症状が残った際、後遺障害診断書の作成が難しくなる場合があります。
仕事の都合などで整骨院・接骨院との併用を検討している場合も、まずは整形外科などの医療機関で医師の診察を受けることが大切です。その後も定期的に診察を受け、症状の変化や回復の経過を確認してもらいましょう。
また、受診前には保険会社へ連絡し、受診する医療機関名を伝えておくと、その後の手続きがスムーズに進みやすくなります。保険の適用や手続きについて不明な点がある場合は、事前に保険会社へ確認しておくと安心です。
X線・MRI検査で分かることと限界、急いで受診したい危険な兆候
レントゲンで分かること、MRIで分かること
整形外科の画像検査では、調べる対象によって機器を使い分けます。レントゲン(X線)検査は骨折や骨の並びを確認し、MRI検査は椎間板(骨の間にあるクッション)や神経、靱帯など軟らかい組織の状態を確認するために用いられます。
どの検査を行うかは、症状や診察の所見から医師が判断します。なお、当院のMRI検査の料金は3割負担で4,500円程度です。また、骨のより詳しい評価にCT検査が必要な場合は、設備のある連携病院へ紹介される流れが一般的です。
| 検査の種類 | 主に確認する対象 | 検査の特徴と注意点 |
|---|---|---|
| レントゲン(X線) | 骨折の有無、骨の並びや変形 | 短時間で撮影できるが、筋肉や神経は写りにくい |
| MRI検査 | 椎間板、神経、靱帯、筋肉の状態 | 磁気と電波を使うため被ばくはないが、撮影に時間がかかる |
| 神経学的検査 | 関節の動く範囲、筋力、知覚、反射 | 医師が首や手足を動かしたり触れたりして神経の働きを調べる |
画像検査や薬物療法、物理療法、セラピストによる運動器リハビリテーションを進める際は、主なリスク・副作用として、検査時の姿勢保持やリハビリ後の筋肉痛・一時的な痛みの増強、内服薬による眠気や胃部不快感などが起こることがあります。
画像に異常がなくても「気のせい」とは限らない
むち打ちの多くは筋肉や靱帯などの微細な損傷であり、レントゲンやMRIを撮ってもはっきりした異常が写らないことがあります。しかし、画像に異常がないからといって「気のせい」や「問題なし」と決まるわけではありません。
整形外科では画像だけでなく、首の動く範囲や筋力、皮膚の感覚、反射などを調べる神経学的検査と、症状の経過を組み合わせて評価します 2。周囲から理解されにくい痛みであっても、診察を通じて医学的な記録を残しておくことが大切です 2。
救急受診を優先したい兆候:強い頭痛・手足の脱力・吐き気など
事故のあと、次のような兆候がある場合は、仕事や家族の送迎よりも救急受診を優先してください。頭部や脊髄(背骨の中を通る太い神経)の損傷など、早急な対応を要する状態が隠れている可能性があります 4。
- 頭や意識の症状:急に強まる激しい頭痛、繰り返す吐き気や嘔吐、意識がぼんやりする
- 手足や全身の症状:手足に力が入りにくい、しびれが両側に広がる、歩きにくい、排尿や排便の異常
仕事や運転・送迎を続けながら受診を考えるときの目安
上記のような緊急の兆候がなくても、首のこわばりや頭痛が続く場合や、パソコン作業がつらい場合は早めの受診をご検討ください。とくに首が十分に回らない状態での車の運転は、後方確認や左右の安全確認が遅れやすくなります。
運転や仕事の再開・継続に迷うときは自己判断せず、診察時に医師へ相談して治療計画やセラピストによるリハビリの進め方を確認しましょう。
よくある質問
Q. 追突事故でむち打ちは、何日後に現れますか?
A. 事故直後から痛む場合もあれば、数時間から1〜2日ほどたってから首のこわばりや頭痛に気づく場合もあります。炎症が時間をかけて進むことや、事故直後の緊張が解けることが影響するため、数日後に症状が出た場合も整形外科へご相談ください。
Q. 追突事故でむちうちになる速度はどのくらいですか?
A. 何キロ以上なら起きるといった明確な基準はありません。低速での追突であっても、信号待ちで身構えていなかった場合や、ヘッドレストの位置が合っていなかった場合などには首へ負担がかかり、症状が現れることがあります。
Q. 追突事故でむちうちになった場合、点数はどのように計算されますか?
A. 交通違反の点数や処分は、けがの重さ(治るまでにかかる見込みの期間など)や、どちらにどれだけ落ち度があったかをもとに、警察や公安委員会が決めます。医療機関は体の診察と治療、必要な診断書づくりを行う立場です。点数の決まり方や手続きのくわしい内容は、警察へおたずねください。
Q. 平山整形外科医院を受診するとき、事前の予約は必要ですか?
A. 予約なしで受診できますが、事前にWEB予約などを利用すると、待ち時間が短縮します。また、交通事故による受診の際は、来院の前に相手方の保険会社へ受診先の医療機関名を伝えておくと、受付時の手続きがスムーズに進みやすくなります。
参考文献
1. 「外傷性頚部症候群」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/whiplash_injury.html
2. Uhrenholt L, Kasch H, Brink O. Systematic diagnostics and documentation for whiplash. Ugeskrift for laeger. 2023. PMID: 37264886
3. Piovesan EJ, Utiumi MAT, Grossi DB. Cervicogenic headache – How to recognize and treat. Best practice & research. Clinical rheumatology. 2024. PMID: 38388233 / DOI: 10.1016/j.berh.2024.101931
4. Dwyer B, Zasler N. Post-traumatic cephalalgia. NeuroRehabilitation. 2020. PMID: 32986623 / DOI: 10.3233/NRE-208006
2000年 熊本大学教育学部付属中学校卒業
2003年 熊本県立玉名高等学校卒業
2010年 福岡大学医学部医学科卒業
2010年 宮崎県立延岡病院
2011年 熊本大学医学部付属病院
2012年 熊本大学整形外科入局
2012年 熊本大学医学部付属病院整形外科
2013年 熊本市民病院整形外科
2014年 水俣市立総合医療センター整形外科
2015年 山鹿市民医療センター整形外科
2017年 公立玉名中央病院整形外科
2020年 平山整形外科医院開院
日本整形外科学会認定リハビリテーション医
日本整形外科学会認定スポーツ医
日本整形外科学会認定リウマチ医
身体障害者福祉法第15条指定医
あわせて読みたい関連記事
